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エクセルのハンコの話「印鑑の限界と代替される証明方法」

time 2021/11/25

エクセルのハンコの話「印鑑の限界と代替される証明方法」

押印に関するQ&A-経済産業省にあるハンコの効力やいかに!?というお話。

前編「印鑑は要るの?要らないの?」に続き、後編の今回は、印鑑の機能としての限界と、それに代替される証明方法のお話です。

 
 
Q4.文書の成立の真正が裁判で争われた場合、文書に押印がありさえすれば、証明の負担は軽減されることになるのか。

・押印がある文書について、相手が「お前が作ったんじゃないだろ!」(しつこい笑)といちゃもんを付けてきた場合には、普通は、文書を作った人が自分の意思で印鑑を押したことが認められます。

・文書を作った人が印鑑を押したのか怪しい場合にも、印影と文書の作成名義人の印章が一致することが証明されれば、その印影は、作成名義人が自分の意思で押したことが推定され、更に、その文書自体、作成名義人が自分の意思で作成されたことが推定されるという判例があります(民事訴訟法第228条第4項と最判昭39・5・12民集18巻4号597頁参照)。これを「二段の推定」(複雑!笑)と呼びます。

・この「二段の推定」には、
 1.印章が盗まれた場合など、「印章の持ち主が文書を作ったんじゃない!」と相手が証明してきた場合には、推定が破られる。
 2.印影と文書の作成名義人の印章が一致することの証明は、実印である場合には印鑑証明書を得ることで可能だが、認印の場合には印鑑証明がないので、証明が難しい。
という限界があり、証明の負担が軽減される度合いは限定的です。

・誰が文書を作ったかという話とその文書がウソ偽りのない文書かという話は別ものです。ただし、法律行為(売買契約をはじめとした、その行為によって「売ります・買います」といったような義務が生じるような行為をいいます。)が記載された契約書などの文書は、文書の作成名義人と本当に文書を作成した人が一致することが証明された場合(「お前が作ったんじゃないだろ!」といういちゃもんが認められない場合)には、契約書の中身自体(例えば、売買契約が成立していることなど)も認められやすくなります。一方で、請求書、納品書、検収書など法律行為が記載されていると認められない文書については、文書の作成名義人と本当に文書を作成した人が一致することが証明された場合でも、請求書の基になる売買契約の存在が認められることはありません。なので、請求書などに押印をしてあった場合でも、売買契約の成立や中身自体については、別途裁判で証明する必要がでてきます。

 
Q5.認印や企業の角印も、「二段の推定」を元に、文書の成立の真正について証明の負担が軽減されますか。

・「二段の推定」は、認印にも適用されるという判例があります(最判昭和50・6・12裁判集民115号95 頁)。ただ、認印には印鑑証明がないため、相手に押印をお願いする場合、実印を押してもらって、印鑑証明をもらえれば、その印鑑証明によって印影と文書の作成名義人の印章との一致を証明することが簡単になります。

・押印時に印鑑証明をもらっていなくても、何らかの方法で後から入手すれば、同様に証明が簡単になります。けれども、印鑑証明は本人か代理人しか取得できないのが普通なので、「お前が作ったかどうか証明したいから印鑑証明頂戴!」と言っても、中々難しいでしょう・・・。

・先ほど述べたとおり、認印には印鑑証明がないため、印影と文書の作成名義人の印章との一致を証明する手段はないと言ってもいいです。そのため、「二段の推定」が使えません。裁判になったときに役に立たない認印、本当に必要ですか?一度考えてみる必要があります。

・しかも、3Dプリンターといった技術の進歩によって、ハンコの偽造が簡単になったという声もあります。

 
Q6.文書の成立の真正を証明する手段として、どのようなものが考えられますか。

・押印以外の証明方法も考えておく必要があります。
1.ずっと取引を続けているような相手に対して
・取引先とのメールのメールアドレス、本文、日時など送受信の記録の保存(請求書、検収書、領収書、確認書などは、このような方法のみでも作成名義人が作成した文書であることが認められやすいため、重要な証拠になります。)
2.新しく取引を始めた相手に対して
・契約を締結する前の本人確認情報(氏名、住所などとそれを証明する運転免許書など)の記録・保存
 ・どのような方法で本人確認情報を入手したか(郵送受付やPDF送付)の記録・保存
 ・文書や契約が作成されるまでの交渉過程(メールやSNSでのやり取り)の保存
3.電子書面や電子認証サービスの活用を検討する。

・上記1、2については、例えば以下のことを行っておくと、証明が更に簡単になりえます。今後の技術進歩によって、新たな方法が様々登場することでしょう。
a. 契約書を交わす前に、契約を締結することに合意したことを示すようなメールを保存する。
 b. PDFにパスワード設定する。
 c. (b)のPDFをメールで送付するときに、パスワードをスマホなどの別媒体で相手に伝える。
 d. 複数の人宛のメール送信する(担当者に加えて、法部担当部長や取締役などの決裁権者を宛先に加えるなど)。
 e. PDFを含んだ送信メールとその送受信記録を長期にわたって保存しておく。

 
 
前編はこちら

エクセルのハンコの話「印鑑は要るの?要らないの?」